判例研究
賃金減額が認められる条件とは?
ハクスイテック事件(大阪地裁判決 平成12年2月28日)
事件の概要:
ハクスイテックの従業員である原告は、会社の行った平成8年3月21日付けの給与規程の変更および平成11年1月1日付けの退職金規程の変更が、いずれも労働条件の不利益変更にあたり、合理性のない無効なものであるとして変更前の給与規程および退職金規程が現に効力があるとの確認を求めたものである。
判 旨(労働者側勝訴)
- 一般的に、労働者の同意を得ることなく一方的に就業規則を変更して労働者の既得権を奪い、また労働者に不利益な労働条件を課すことは原則として許されない。
しかしながらその変更が、その内容および必要性からみて労働者が受ける不利益の程度を考慮してもなお合理性を有すると判断される場合には、労働条件の集合的処理の観点から、会社は個々の労働者の合意を経なくとも有効にかかる変更をなしうるとするのが相当である。
ただし、その変更が賃金や退職金といった労働者にとって重要な権利についてなされる場合には、かかる不利益を労働者に受忍させることを法的に許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理性がなければならない。
- 会社は、不動産投資等の失敗により2期連続して赤字経営となったことから収支改善の措置の必要性に迫られ、今回の賃金制度の改訂に着手したものである。
新しい給与規程は従来の年功賃金制度の弊害を改善し、会社の競争力を高めることと従業員のモラールアップを図ることを目的に、能力主義、成果主義の賃金制度を導入したもので、近年のわが国の企業を取り巻く経営環境を鑑みれば極めて合理的な選択といえる。
また、会社では営業部門のほか、原告の所属する研究部門においても成果を還元する制度を導入したが、これを支えるためにも能力主義、成果主義の賃金制度を導入する高度な必要性があったといえる。
- また、新しい給与規程は能力主義、成果主義の賃金制度であるとはいえ、移行時の賃金は従前の金額がほぼ補償されていることから、労働者の受ける不利益の程度はそれほど大きくないというべきであり、むしろ評価の低い者に対して高額の賃金を払い続けるとすると、そちらの方が公平を害するもので合理性がないといわなければならない。
- さらに、会社は新しい給与規程の導入にあたり、労働組合(構成員は原告を含めて2名)とは合意に至らなかったものの、実施まで制度の説明も含めて5回、その後の交渉を含めれば10数回に及ぶ団体交渉を行っており、また、労働組合に属さない従業員はいずれも新しい給与規程を受け入れるに至っている。
原告は、労働条件の変更については労働組合との合意を得て実施するという慣行があった旨主張するが、そのような慣行までは認めることはできない。従って、今回の新しい給与規程への変更は、高度な必要性に基づいた合理性があるということができる。
解 説:
- 判旨でも述べられているとおり、賃金の減額に関しては、会社側の高度な必要性に基づいた合理性と労働者の被る不利益の程度が大きな問題になることは疑う余地もない。ただ、一口に賃金の減額といっても基本給、各種手当、賞与、退職金等々、賃金の種類によりその判断基準も異なってくる。
中でも賞与は基本的に会社の利益を配分するものであることから、会社の業績によって変動することは労使ともにある程度予期しているところである。従ってここで問題になるのは、制度として長期的な予測がある程度可能な賃金(基本給、各種手当、退職金等)の減額や制度改訂である。
- 会社を取り巻く環境が劇的に変化している状況下で、古い時代に作りあげた雇用システム(年功序列、終身雇用等)をそのまま踏襲していかなければならないとしたら、会社の競争力はおのずと低下し、経営が行き詰まってしまうことは誰の目にも明らかである。
会社は今まで良いとされてきたそれらの雇用システムを再検証し、改善すべき点を早急に改善していく必要性に迫られている。その流れの中で、賃金制度の改訂が避けては通れないということは、既に多くの会社で能力主義、成果主義の賃金制度が導入されていることからも明らかであり、その意味において合理性を有すると判断される。
- また、ここで問題とされている賃金の減額が、すべての労働者を対象とする一律の減額ではなく、客観的で公平な評価を受けた上での減額であるならば、一部の労働者にとっては不利益な変更となるであろうが、全体に与える影響の程度は小さいとみなすべきであろう。
ちなみに多くの判例においても、会社が能力主義の制度を導入して客観的で公平な評価をした結果、賃金が減ってしまった場合でも、ここでいう不利益変更には該当しないと判示している。つまり、これらの評価に関しては会社の裁量権が大幅に認められているということである。ただし、機械的な制度運用を行っていた場合には不利益変更とみなされてしまうことがあるので十分な注意が必要である。
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