判例研究
試用期間中または終了直後の解雇はどのような場合に可能か?
三愛工業事件(名古屋地裁判決 昭和55年8月6日)
事件の概要:
労働者は昭和55年4月23日、3カ月の試用期間付きで会社に採用されたが、昭和54年5月30日に同月31日付けで解雇する旨の通告を受けた。その理由は、面接時に提出した労働者の履歴書に虚偽の学歴および職歴を記載するなど、その経歴を詐称したことが会社の就業規則に定めた懲戒解雇事由に該当するものと判断されたためである。労働者の記載した虚偽の学歴および職歴の具体的内容とその背景は以下のとおり。
- 昭和42年3月愛知県立岡崎高等学校を卒業後、昭和43年5月から昭和47年2月までけやき印刷株式会社に勤務した旨を記載したが、実際には昭和43年または44年頃大阪市立大学に入学し、昭和47年頃同大学を中退したためけやき印刷会社に勤務したことはなかった。
- 在学中、学生運動を経験し投獄の体験も有ることから、大学中退である旨の申告を行えばその原因に関心を持たれ、学生運動歴や政治思想を理由に採用されないおそれがあった。
そこで労働者は、今回の虚偽の学歴・職歴の申告は会社が懲戒解雇事由とする「重要な経歴の詐称」に該当せず、また解雇権の濫用であるとして地位保全、賃金支払の仮処分を求めた。
判 旨(労働者側勝訴)
- 一般的に会社が労働者を採用するにあたり、履歴書等を提出させその経歴を申告させることは労働者の資質、能力等を評価して採否の判断を行い、使用後の賃金等の決定のために必要なことであるから労働者は真実を告げることが信義則上の義務といわなければならない。従って、労働者が自己の経歴について虚偽の事実を申述することは重大な信義則違反行為であり、会社が就業規則で定める懲戒解雇事由に該当すると認められる。
- しかし、会社は現場作業員を採用するにあたり、大学在学経験者等高等学歴者は厳しい労働条件下での肉体労働に対する耐性を欠きがちで長期間継続して勤務することが望めないこと、生活感情、思考方法、行動様式の全てにおいて高校卒業以下の者との間に距離があり、職場の協調や秩序を乱すことで生産効率に大きな支障をきたす危険性が高いこと等から、従来から高校卒業以下の者に限るとの採用方針をとっていたと主張するが、労働者が直接応募することを決意した新聞の求人広告には学歴に関する記載が一切なく、また面接時にも高校卒業からけやき印刷株式会社就職までに1年余の空白期間があるにもかかわらず、その間の経緯についての質問もなく、高校卒業以下の者に限るとの採用方針の説明や労働者の大学進学の有無についての質問もなかった。このことから、高校卒業以下の者に限るとの採用方針が厳格に運用されていたとは認め難いといわなければならない。
- 会社と労働者との間に締結された本件契約は、試用期間中に労働者の職業能力および業務適性を調査し、これらを欠くと認められるときに解雇できる旨の解約権が保留された期間の定めのない労働契約とみなすことができるが、その解約権の行使にあたっては客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解するのが相当である。
- 本件は、会社の採用条件(学歴)の不明確さが影響したと考えられるが、それに加えて職種が港湾作業という肉体労働であって学歴は二次的な位置付けであること、大学中退を高校卒としたものであって詐称の程度もさほど大きいとはいえないこと等を総合すれば、本件学歴詐称はそれ自体信義則に反するものではあるが、それのみを理由に一旦採用された者を解雇するのは著しく妥当性を欠き、解雇権の濫用であると判断される。また、労働者は採用時から解雇までの間、会社の業務遂行上特に弊害となるような言動に及んだり、職場の人間関係に支障を来たすような問題を生じさせた事実がなかったことが一応認められることから、本件解雇時点において、労働者には港湾荷役作業員としての能力、適性に欠けると判断することはできなかったというべきである。
解 説:
- 会社と試用期間中の労働者との間には、解約権が留保された期間の定めない労働契約がすでに成立しているとする立場を裁判所はほぼ一貫してとっている。であるならば、保留されている解約権を行使するためにはそれ相当な客観的、合理的な理由が必要であることはいうまでもない。使用者は労働者を不適格と判断する場合、その判断の具体的根拠を示す必要があり、その判断の根拠の妥当性が客観的に判断されることになる。
- 試用期間中の労働者と一般の労働者とで解約権行使の基準に違いがあるのは、試用期間中にその者の職業能力または業務適性を否定することが客観的に相当であると認められる事実が判明した場合だけと考えられる。今回のケースでは、職業能力、業務適性においてはまったく問題がなかったわけであるから、ポイントは一般の労働者に適用される解約事由があったかどうかであるが、それは判旨にもあるとおり信義則に反する行為はあったものの解雇するには著しく妥当性を欠き、解雇権の濫用と判断されている。
- また、ブラザー工業事件では、試用期間中の労働者は不安定な地位に置かれているものであることから、合理的範囲を超えた長期の試用期間の定めは公序良俗に反し、その限りにおいて無効であると判示している。個人的には、試用期間が労働者の能力や適性を判断する期間であることを鑑みれば、長くても6ヵ月程度とすべきであると考える。
