判例研究
会社は採用面接でどこまで個人的な事柄を聞けるか?
三菱樹脂事件(最高裁判決 昭和48年12月12日)
事件の概要:
労働者は昭和38年3月大学卒業後、会社に採用されたが、3ヵ月の試用期間満了直前に本採用を拒否する旨の通告を受けた。その理由は、労働者の提出した身上書や面接時の経歴申告に対して虚偽の回答をしたことが民法96条にいう詐欺に該当し、また労働者の管理職要員としての適格性を否定するものと判断されたためである。労働者の秘匿ないし虚偽の申告をしたとされる事実の具体的内容は以下のとおり。
- 在学中、学生自治会の役員の経験があり、安保改定反対等の学生運動に積極的に参加していたにもかかわらず、学生運動はしたこともなく興味もなかったと述べた。
- 在学中、生活協同組合の理事・組織部長の要職にあったにもかかわらず、これを記載しなかった。
そこで労働者は、地位保全・賃金支払の仮処分を、さらに労働契約関係存在確認請求を求めたものである。
第一審判旨(労働者勝訴)
- 身上書の記載や面接時の応答程度では管理職要員としての適格性を判断するのに十分とはいえず、本採用拒否の理由としては合理性はなく、試用契約の本旨に反して無効である。
第二審判旨(労働者勝訴)
- 通常の会社では、特定の政治的思想・信条を有する者を雇用したとしても、その思想や信条ゆえに直ちに事業の遂行に支障をきたすとは考えられないため、入社試験の際に思想・信条に関する事項を申告させることは公序良俗に反して許されず、応募者がこれを秘匿したとしてもそれを理由に本採用を拒否することはできない。
最高裁判旨(破棄差戻、労働者敗訴)
- 憲法が保障する思想・信条の自由、法の下の平等の各規定は、国または公共団体と個人との関係を規律するものであって、私人相互の関係を直接規律するものではない。
- 企業には経済活動の一環として契約締結の自由があり、自己の営業のためにどのような者をどのような条件で雇うかについて、法律その他による特別な制限がない限り、原則として自由に行うことができるものであり、特定の思想・信条を有する者をそれゆえをもって雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできない。また、本件において問題とされている使用者による調査が、労働者の思想・信条そのものについてではなく、直接には労働者の過去の行動についてされたものであり、ただその行動が労働者の思想・信条と関連していただけである事を考慮すれば、そのような調査を違法とすることはできない。
- 労基法3条の信条による差別禁止は、雇入れ後の制限規定であって雇入れそのものを制約する規定ではない。
解 説:
- 企業は企業存立の目的である利潤追求のために労働力を確保するのであるから、いかなる者を雇い入れるかは企業の自由であり、採用を強制されることはない。
- そこで、労働者が有する思想・信条の自由および法の下の平等と企業の契約締結の自由との関係が問題となるが、企業の契約締結の自由を強調した結論を導き、採用過程における使用者による応募者に関する広範な情報収集を事実上承認したのがこの三菱樹脂事件最高裁判決である。これに類似する判例を見ても、思想・信条等が採否の判断基準の直接的決定的な理由である場合には憲法の諸規定の精神に反するといえるが、それらが判断基準の一つ若しくは間接の原因にとどまる場合には雇入れを拒否しても違法とはならないと判事している。
- しかし、三菱樹脂事件において最高裁は、「法律その他による特別の制限」がある場合には採用の自由が制限されるとも判事している。近年まで採用の自由を制限する法規制はあまり存在してこなかったが、最近は使用者の採用の自由が徐々に規制される傾向が見受けられる。
- 性差別の禁止
男女雇用機会均等法5条は、使用者は募集及び採用に関して、女性に男性と同等な機会を与えなければならないと規定している。これにより、今まで広く行われてきた「男性のみ」「女性のみ」といった募集はできなくなった。 - 個人情報保護の規制
職業安定法5条の4第1項は、公共職業安定所等が業務の目的達成に必要な範囲内で求職者等の個人情報を収集することを認めている。ということは、裏を返せば業務の目的達成に必要な範囲内とみなされない思想・信条等に関する情報収集は行えないことになる。ちなみに「公共職業安定所等」の中には「労働者の募集を行う者(企業)」が含まれている。 - 年齢差別の規制
改正雇用対策法(平成13年10月1日施行)は、募集・採用時の年齢制限緩和に向けた取り組みとして、一定の場合、年齢にかかわりなく均等な機会を与えるよう努力する義務を事業主に課している。 - その他の規制
厚生労働省は、人種、民族、社会的身分、門地、本籍、思想及び信条、労働組合への加入状況等に関する情報を収集しないよう指導を行っている。
以上のことから、三菱樹脂事件最高裁判決は、先例としての価値を有するが、近年はこの判決が認めた企業の広範な情報収集活動の自由は制約される方向にあるといえる。
